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私たち夫婦の旅は、どちらかと言えば名所旧跡や都市ではなく自然のある場所が多い。それは、狭い家に住み人込みの中で生活している日常を忘れさせてくれるからかもしれない。その意味で、北イタリアの「湖水地方」も興味がありこのツアーに参加したのだ。ただ、最後に雑踏のベニスへ行くことには気が進まな
かった。しかし、恐竜の背びれのように林立して連なるドロミテ山塊は堪能した。だが、時は正に自然の摂理で経過していく。その山塊に囲まれた小さな街コ
ルティナの最後の夜に、私は妻に言った「ベニスよりも俺はここに居たいよ」。妻が言う「映画『旅情』の、ゆかりの場所でも回ってみましょう」。キャサリ
ン・ヘップバーンとロッサノ・ブラツィの、ベニスを舞台にした古い恋愛映画である。しかし、都会に興味のない私はベニスへ向かうバスの中でひたすら眠り、妻に起こされた時はそこはもう水の都だった。私はビデオを取り出すと、行き交うゴンドラや無数の運河と橋を撮る。そこで私は気づいた、不覚(?)にも気の進まぬ都会で自分の血が騒いでいるのだ。それは、何度も観た映画「旅情」そのも
のがそこに有るからなのかもしれない。

レナートの店 |
とにかく、ホテルに着いて夕食が終わると、私たちはすぐに映画の中の二人が初めて知り合ったサン・マルコ広場へ向かう。薄暗い回廊を抜けると、映画と全
く同じ光景が目の前に広がってきた。「うわー」妻が思わず言う。どこのカフェからか、ロッシーニの「セビリアの理髪師」が聞こえる。私たちは吸い込まれ
るように、その一角の席に着いた。夕食でのワインとそこでのビールの威勢を駆って、私は多めのチップと共に「サマータイム・イン・ベニス」をリクエストする。更に、キザに徹して花売りから妻にバラの花を買った。リクエスト曲を聴きながら、大理石の柱廊に囲まれた壮麗な大空間を見回す。「ステキね」妻が言った。翌日は自由行動。私たちは地図を片手に例の店を探す。それは、ジェーンが赤いゴブレットを買ったレナートの店である。30度を超す炎天下のもと
で、やっとその店を発見した。店は工事中で赤いゴブレットも置いていなかったが、私たちは暫くそこにたたずんでしまった。それからは、ジェーンのウエス
トの二倍はある妻と田子作ズラの私は、アメリカ女性とイタリア男になったつもりでベニスの1日を満喫したのである。旅行の最後の夜に私は言った「チク
ショー、俺は都会が嫌いなんだ!」。「そう?」妻が言った「ベニスに関しては、どうかしら?」
(7月9日発 北イタリア湖水地方とドロミテ渓谷の真珠コルティナ 10日間の旅にご参加いただきました。)
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